絵を描こうと思ったきっかけ

今は弁当しかこさえていないけれど、絵も描けるよ。

ここ数か月、絵からはめっきり離れた生活をしているけれど、一応絵を描こうと思ったきっかけも残しておこうと思う。

20代後半に母方の叔父が癌を患い、療養のため彼の居住地である大阪で入院していた。

沖縄在住のわたしは当時、経済的にも豊かではなく、まだ小さかった長女を連れて大阪までお見舞いすることが難しかった。

そこで絵を描いて、近々お見舞いで大阪へ行く予定の母に預けようと思い立った。病気なんかに負けないでほしいという願いを込めて、百獣の王ライオンを描くことにした。

何にも負けないでほしい。そんな思いを込めて強さを意識してライオンを描いているはずなのに、何度手直しを加えても悲しい目をしたライオンにしかならなかった。

そんなライオンだったが、病室に飾ったところ看護師さんからの評判もいいと聞き、調子に乗って不謹慎ながらこの絵を買う人っているのかな?と、気になり始めた。知りたくなったらもう止められない。なんせ後先どころか常識もタイミングも場の空気も気にしたり考えていられない性分、思い立ったらすぐやるのが常だ。

そこで、当時まだそこまで有名ではなかった某フリマサイトにその絵の画像を載せて販売してみた。絵は手元にないのに。当時、いまの夫とは出会っていないので、わたしを止める者が近くにいなかったのも悪かった。

で、売れてしまったのだ。

慌てて購入者へ連絡し正直に事情を説明。

新たに別の絵を描くのでそれを見てから、今一度購入を検討してほしいと交渉し、まったく違うライオンを描いたらちゃんと購入してもらえた。

この一連の出来事ですっかり調子に乗って絵を売り始めた。

1000円で。

自分の作品を安売りしていたが、当時は10円でも売れないと思っていたので1000円でも、出せばすぐ売れる状況が嬉しくて仕方がなかった。送料はこちら持ち、おまけに額付きなもんだから儲けは200円~300円程度だった。

それでも求めてもらえるということが嬉しくて仕方がなかった。

続けていくうちに見合った値段を欲するようになり、徐々に値段を上げていった結果、当時から10年ほど経過した今はB3サイズの絵が3万円~5万円ほどで販売できるようになった。

それでも有名画家の絵と比べれば10分の1程度の値段だ。

芸術とは本当になんなのか。。

わたしには、個性なんてものはない。

私に、「絵を描きたくてしかたがない!」といった衝動のようなものがあればよいのだが、そんなものは残念ながらない。

基本、依頼してくださる相手があってこそで、喜んでもらえる相手がいないと描けない。依頼がないと描けないなんて、画家としては致命的ではないかと思った。ご依頼主とのカウンセリングを繰り返し、好きな色や好きな雰囲気、時には昔ハマっていたいたものは何か、などを引き出しながら、途中経過を見てもらいつつ彼らが好きそうな、喜びそうな絵をあつらっていく。

芸術ってより、ちょっと絵が描ける人間が絵を通してカウンセリングをするっていう感覚に近いのかも知れない。

そのせいか、ご依頼主の特徴として何か悩まれていたり背中を押してくれる何かを欲している方が多い気がする。

ただ、ご依頼をいただく度に絵の雰囲気が違うため、芸術家には絶対的に必要な「一目みれば誰の絵かがすぐに分る。」という状況を、わたしは作り出せない。それがずっと心に引っかかっていた。

個性が、圧倒的に足りないのだ。

そんな時、俳優の大泉洋さんが「僕は自分がない。見ている人、関わっているチームやスタッフの方々を喜ばせたいサービス精神の塊のような俳優だ。」みたいなことをおっしゃっていて、それを聞いた時にスッとモヤが晴れたような感覚があった。

個性のある方々はなりふり構わず突きめ。これはあんたらの特権だ。

まったく羨ましいぜ。

それに比べてわたしには、個性なんてものはない。

個性がないという事実を受け入れることが出来たわたしは、ご依頼主に寄り添って彼らのためだけにあつらえた作品作りをしていこうと思った。そう、諦めも肝心である。

個性を諦めてご依頼主様ファーストの絵をあつらえ続けていたら、絵を購入してくださった方の中でわたしの絵を棺に入れて欲しいと遺言書に書き留めてくださった方が現れた。

彼女が亡くなったあと、その娘さんからのご連絡で知った事だ。

人から見れば何がいいのか分からないわたしの絵が、あの世に持って行きたい物のひとつに選んでいただけたという事実が、恐れ多くもあつら絵は間違っていなかったかも知れないし、依頼があればお受けしようと思う理由となっている。

今現在、依頼は途絶えているけれど。

※画像の張り方がわかないので、分るようになったら内容の絵を、画像で残しておこうと思う。

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